夜を待つ。
 俺を優しく眠りへと誘い出す天使たちは、ささやいている。その優しさはいつも確かに俺を誘ってくれたけれど、今日はシンと冷えたフローリングにぺったりを頬をくっつけたい気分なんだ。誰かの香りが染みこんだクッションを胸に抱いて縋っても、抱き返しては来ない。カーテンの隙間から漏れ出した月明かりがフローリングの木目をてらてらと揺らめかせて、それは俺を不安にさせたのだ。
 会いたくて夢を見ていた、けれど今は。夜の帳を抜けだして、裸足で薔薇を踏むように駆け出せば、いつでも会えるのだと、そう。
「ああ、きえちゃった……」
 短いスパンでやってくる生温い眠りから目覚めては、ひたひたと揺れるカーテンの影を見ていた。この部屋に入ってくる冷たい風は確かに俺の身体を冷やしていくのだけど、どうしてか窓を閉めようとは思わなかった。一体の人形になったみたいにじっと、持ち主の帰りを待っている。
「……よるはおっかないものが来るんだよ おびえても ふるえても かまわず おいかけてくるんだ」
  たすけてのこえもとどかない――
 窓の外に手を伸ばしたらきっと、俺を連れ去りにやってくる。俺は床に寝そべりながら、歌うように口ずさんで。
 ピーターパンを期待した子どもは、どれだけ絶望しただろう? 幸せな夢を見せてくれるはずの天使がティンカーベルの皮を被った悪魔だったら? ピーターパンの顔をした化け物に頭から食べられてしまったら?
 どうしてだろう、もっと幸せに終わるはずだったのに。
 俺は空想の化け物に食べられた子どもの幸せを願った。こわいくらいに。俺が食べられてあげると囁いた。だって俺は違う物語で一度勇者になったんだよ、って。君のこともきっと、助けてあげられるんだ、って。怯えても、震えても、ひとりじゃないよ、って――……一番助けてあげたかった子どものことを、思った。送る宛の無い手紙に毎日切手を貼って、そっと机の引き出しに仕舞い込むみたいに。
 見上げた天井が遠くて、手を伸ばす。自分の部屋じゃない天井は不安にさせても落ち着かせることはない。こんな時、世界でひとりきりになったような、そんな気分になる。
 ドアノブを捻って入ってくるのが自分の望んだものだなんて、そんなことありっこないのに。
 ここが辻村の部屋だからって、辻村が入ってくるとは限らない。辻村が助けに来てくれるとも、限らないよ。
 帰ってきた辻村が冷たくなった俺を見つけて、そうしたら――彼は嘆いてくれるだろうか。たとえばここで俺が連れ去られて消えてしまっても、辻村は泣いてくれるだろうか? 牙をなくした獣が慟哭する姿を俺は見ることが出来るだろうか? 辻村が俺の大切な友人たちと抱き合って泣いている姿を。
 もしそうなら、俺はうれしい。例えようもない喜びを抱きしめて、旅立っていくことができるだろう。だけど俺のために涙を流す辻村を、俺は抱きしめてあげられない。
 
 
 恐れを抱きながらぼんやりと見つめていた、自分の部屋と同じドアノブが半回転して、ゆっくりと扉が開く。一瞬だけ部屋に緊張が走って、そして解けた。そろそろと、誰かが部屋を覗くように口を開けたその先に、その大きな手にマグカップを二つ持った辻村の姿が見えて。
「手伝えよ」
 そこで寝っ転がってないで。辻村は悪態をつく。並々と注がれたコーヒーを、一滴も零さないようにして。
「ノックくらいしたらいいのに」
 部屋に入るだけ入って近寄ってこない。キッチンから部屋まで持ってこられたのだから、ここまで持ってこれないはずはないのに。甘ったれて、かわいい。
「どうやってノックするんだ。俺は両手が塞がってるんだぞ」
「足があるでしょう、立派な足が二本も」
「俺はそんな下品なことはしない」
「はいはい」
 よいしょ、と掛け声と共に起き上がって駆け寄った。アブねえよ、なんて噛み付いてる暇があったら、早くその長い足を動かしてこっちまで歩いてくればいいのに、とは言わない。
 正面に向き合った辻村のてっぺんから爪先までを眺めて、ああ、辻村だったよかった。とほっとしたことは秘密で、靴下に穴が開いていることもついでに秘密にしておこうと思った。怪訝そうに眉を潜めた辻村が「お前の分だ」と差し出したコーヒーはブラックで、俺の困惑と共にたぷん、と一度波打った。


「辻村……これ、苦い」
 俺のマグカップにたっぷり収まっている液体は、胃に優しくない苦味を孕んでいた。舌にも優しくない。
 辻村は喉をこくりと鳴らして飲み込んでいるけれど、お茶菓子も甘いものも何もつかないコーヒーブレイクは、俺にしかめっ面をさせるだけだ。
「そもそも眠気覚ましのコーヒーだろうが」
「そうだけど……」
 いいよね、君はいつも飲んでいるから。口の中にしびしびと広がる攻撃的なブラックコーヒー。しかも薄い。甘くない。ひどい。一口含んでは渋面を浮かべる俺を見つめて、辻村はいいよ、と言った。ボソリとした呟きを、二人きりの静寂は明瞭に響かせてくれた。
「別に無理して飲まなくていい」
「……」
「俺が白峰に、淹れてやりたかっただけだから」
 そんなこと、言われたら。尚言い募る辻村は頑なにこっちを見ないけれど。辻村の手がマグカップを隠すようにして掩うものだから、思わずその手に重ねてしまったじゃない。
「俺の自己満足だ、もう満たされてる」
「喜ばせてやりたかったけど、かえって白峰のことを何も知らないことに気付いちまった」
「悔しいな」
 怯えてるわけじゃない、震えてるわけじゃない。だけど辻村の心は寂しさに揺れていた。あれから辻村はこうした心の機微を口に出すようになっていて、それは俺の心臓の深いところを刺激する。与えられなかったわけじゃないのに、与えられないと息巻いて、追いかけている。叶えられなかったわけじゃないのに、そんなことはないと胸を張って言えない。
 泣き方は知っている。嘆き方を知らないだけだ。おもちゃを強請ることも出来ずに、拳を握って嗚咽をこらえるだけ。知らない人は通りすぎる。そんな風に笑う辻村を、どうして放っておけるだろう。たすけて、とは言えなくたって、助けて欲しい子どもはいるのに。
 辻村はきっと困っているだろう。俺が何も言わないから。
 冷え切った手のひらを辻村の体温で温めて、そしてもっと温かい自分のマグカップを掬い上げた。さっきと同じ苦味は心地よさを増して、そうして好きになれる。少しだけ。
「……おいしいよ。苦いだけ」
「そうか」
 微妙な表情を浮かべたけれど、辻村は嬉しそうだった。落ち込んでいる辻村はあまりかっこよくないから、俺も嬉しかった。
「……よく考えたらさ、いつも吸ってる煙草の方が苦いじゃない」
「ああ?」
「口寂しくなったらまたこうやって、辻村にコーヒーを淹れて欲しい」
「いつでも言えよ」
 自慢気に口元を緩ませる。俄然やる気を出してくれたみたいだ。君のしてくれたことが僕にとっての幸福だ、嬉しいよ、なんていちいち口に出すのは気恥ずかしいけれど。辻村は回りくどいことが好きだから。ほんの少しでも気持ちに言葉を割いてあげるだけで、こんなに違うのにな、ってぼんやりと思う。
「次は、お前が気に入るようにする」
「気に入るよ。愛情が、入ってるんでしょう?」
 辻村はおもいっきり苦虫を噛み潰したような、とびっきり変な顔をした。笑っていいのか罵倒したらいいのか迷っているような、そんな顔。ああ、辻村のコーヒーを淹れるときはとびっきり苦くしてあげよう。
「覚えといて――俺は砂糖小さじ山盛り二杯なの」
「ありありでね」
 憶えておく、そういって辻村は煙草を咥えた。俺はおかしくなって、おねだりした。ん、と火のついていない煙草を咥えながら顔を差し出せば、神妙な顔つきでライターに火を灯す。薄暗い部屋の中に、二つの丸い光が揺れた。煙草をぷらぷらさせながら、今部屋の灯りを全部消したらロマンチックだな、なんて思う。ありふれた恋物語の始まりみたい。辻村と俺とじゃ始まるものも始まらないだろうに。
「それに、この方が今日はよかったんだよ」
「……どうしてだ」
「寝なくて済むもん」
「だからさっきそう言っただろうが……」
 はあ、と嘆息と煙が混じったため息を吐き出して、辻村はゆるく笑う。疲れてるみたいにじっと俺の目を見て、煙を輪っかにして距離をとった。うわ、やめてよ、と両手で払うと、俺の銜えていた煙草は呆気無く床に落ちて。
「あーあー……」
「まるでイソップ物語だな」
「あれは欲張った結果でしょ! 今のは辻村がいけないんじゃない!」
「手を離したのはお前だろ」
 クックッ、と堪えるように笑いを漏らす辻村の背中をパンと張る。君の部屋でしょうと言い包めると、ようやく笑うのをやめたけれど。絨毯の敷いてあるような部屋じゃなくてよかった。運良くフローリングは焦げ付かないで済んで、それでも、散らばった灰をどうしようかと途方に暮れたのだ。

「ああ、疲れた」
「雑巾を濡らして絞って床を拭くのがそんなに重労働なのか、驚きだな」
「やらなくていいことをさせられたのが疲れるって言ってるの! 元はといえば辻村のせいなのに!」
「そうカッカすんなよ」
「誰がさせてるの……!」
 あれからキッチンにあるという床拭きを持ってきて、部屋の隅で煙草をふかす辻村を睨みながら、煙草の灰を片付けた。辻村はそこが汚れてるとか濡れてるとかあれこれ口だけ出してきて何もしなかったから、ドアを開けるついでに蹴っておいた。
「もう、コーヒーも冷めちゃったし」
「全部飲む気だったのか?」
「せっかく淹れてくれたから……――もう、それなのに! ムカつく!」
「……また淹れてやる」
 すとん、と隣に座った辻村がなんだか別人のように爽やかに微笑んで、一瞬だけ怒りを忘れた。怒りといっても癇癪みたいなものだったんだけど。
「ありありだからね」
「わかってる。その前に、ほら」
 悪かったなと差し出す白い煙草よりも、その指先に見とれたなんて。貰っておく、と答えたつもりだったけれど、唇はきちんと動いてくれただろうか。俺の望み通りに。 

 辻村は本当にコーヒーを淹れ直してくれた。俺のリクエスト通り、甘いミルクコーヒーを。
「それで眠気覚ましなんてな」
「何か文句でもあるの」
「いや?」 
 さっきと変わらないブラックコーヒーを揺らしながら、辻村はどこか遠いところを見た。そうだ、ちょうど一番星を探すみたいに。
 瞠は来てくれるだろうか。茅は、和泉は。もともと辻村と連れ立って行く予定なんてなかった、手持ち無沙汰だったから部屋を尋ねただけで。夜食を作り終わった辻村も、暇を持て余してたっていうから、――……それでもやっぱり、俺は一人になりたくなかった。あるいはあともう少し、正直で卑怯で自信過剰だったなら。まだ、この夜を一人で過ごせたのかもしれないけど。
「今晩は起きてなきゃ、どうしても……」
「……そうだな」
「俺より先に寝ないでよ。ちゃんと見張ってて」
「安心しろ、腹が減ったら夜食も準備してある」
「お腹いっぱいになったら眠くなっちゃうよ……」
「それもそうか……」
 辻村が起こしてくれることを信じながら、目を閉じて思った。瞠が、来てくれますように。
 清史郎と賢太郎、槙原先生に茅、和泉、辻村……みんなに囲まれて夜空を見上げたら、瞠は笑いかけてくれるかな。こうやって辻村と笑ってるみたいに、馬鹿な悩みなんて笑い飛ばしてしまえたらいい。俺の隣に座って、俺の願い事は叶ったよって、そんな風に――。
「……辻村、約束」
「きっと叶えてやるから。心配すんな」
「うん……」
「それに、」
 アイツらがもう迎えに来るだろ、とふかふかの毛布みたいに暖かな声を、意識の端っこで微かに聞いた。

「……――――、ぎり――全部……た……」
「――って、……のに――」
「……ったく――」

 ざわざわと、でも安心するような。この喧騒を俺は知っている。瞼の向こうに光を感じて、強く腕を引かれるように眠りから覚めた。
「…………かや、?」
 さっきまでは確かに二人きり、月明かりだけを頼りにしていたけれど、うっすら目を開けると眩いばかりの蛍光灯に照らされた。隣に座っていた辻村の姿は無く、ただ目の前に茅が座っていた。ちょこん、とでもいうように。
「おはよう白峰」
「…………お、はよう」
「よく眠れたかい」
「……おれ、どれくらい寝てた?」
「? 一時間も経っていないって、辻村が」
「そう……」
 辻村が、さっきまでここにいたんだろう。いつの間にか毛布に包まれていた右腕が、じんわりと熱を孕んでいる。――……確かに、起こしてとは言ってないけど。
「……僕じゃ不満かな」
「え、」
「辻村を探してる? 辻村ならキッチンにいる。和泉が夜食を食べてしまったから」
「そんなこと……」
 ……ない。でも、もしかしたら、辻村に聞いてもらいたかったことがあるかもしれない。そう言うと茅は隣へ行ってもいいかな、と問いかけながら、ずりずりと膝を動かして移動した。……歩いたらいいのに。長い手足を折り曲げて窮屈そうに体育座りをした茅は、じっと俺を見つめている。俺も習って体育座りをして、そうして、さっきまで見ていた夢を思い出していた。
「……聞いてもらいたかったことは、辻村じゃないといけないかな」
「え?」
「僕も白峰の役に立ちたいから」
 僕で良かったら聞かせて欲しい、そういって俺を見つめる茅の眼差しが、前と変わらないものでなくてほっとしている。こうして目と目を合わせても、逸らさなくていいように。逸らすのも逸らされるのもつらいことを知っているから。茅は何も言わないけれど、俺には分かるよ。逸らすことのない左目が、話して欲しいって言ってくれてる。
「……夢を見た。すごく……つらくて。みんな少しづつおかしくなっていく……辻村が、誰のこともわからなくなって……和泉は飛び降りるし……! 茅も……」
「僕は発狂した?」
 ふるふると首を振る。茅はどこかに閉じ込められて、それでも嬉しそうだった。まるで自分から檻に入って出て来なくなったみたいに従順で。昔の茅なら十分有り得そうで……、でも、それを本人には言えない。俺はまだまだ一人じゃ立てないみたいだから。
「……俺は、ともを探してた。ともはどこ? はるはここにいるのに、って……小さい頃みたいに……――お母さんが泣いていたよ。俺は、どうしちゃったんだろうね?」
「白峰……それは、」
「こういう未来があったかもしれないのかな……」
 茅はやっぱり何も言わなくて、それでも一生懸命手を握ってくれた。夢だけど、あまりにも現実味を帯びていて、それなのに遠い世界の出来事みたいで。とも、とも、と駄々をこねる幼子のような俺が、どこかに存在しているような気がしてならなかった。
 俺が空想の世界で救った物語の小さな男の子たちは、きっとそうやって苦しんでる。知らなければ幸せだったかもしれないけれど、俺は知ってしまったから。大切な友人たちの苦しみも、世界にたった一人の弟のことも、きっと忘れられないから。だからこうして夢に出てきてくれるんでしょう?
「白峰だけがそんなに悲しまなくていいんだ、きっと」
「ッ、でも……」
「僕たちは少しずつ悲しい。そんなふうにしてきたよ」
「茅……」
「君を泣かせてしまった。辻村に何をされるかわからない……」
 だから泣き止んでくれ、と。今ここにいるのは君と、僕だ。小さな子どもなんかじゃない、と。嗚咽を堪える僕の背中を、ぎこちなく撫でさする茅の手のひらがあったかい。それなのに、瞼がふやけてなくなってしまう、なんて、辻村作家先生みたいなことを、言うから。
「君はもうわかっている。――そして恐らく、僕もだ」
「そうだね……いつまでも目を塞いでいられないね」
 ――笑われちゃう。そう続けると、茅は優しく抱きしめてくれた。……前はこんなに頼もしくなかった。縮こまって震えている茅をあやしていた。こんなに大きな人を、どうやったらしまい込んでおけただろう? 
「茅はいつからこんなにかっこよくなったの……」
「初めからかな」
「……ふふ、やっぱり茅は甘えただね」
「ありがとう」
「褒めてないよ……」
 もしかして、恋だったら始まった? ううん、恋じゃないからこんなに嬉しい。もし少しでも違っていたら、涙を流す俺を、茅は抱きしめてはくれなかっただろう。茅の前で、俺は泣けなかっただろう。愛だから、こんなにも優しい。
 


 どたばたと廊下を駆ける足音を遠くで聞きながら、がちゃりとノブが回るのをぼんやりと見ていた。茅に、抱きしめられながら。
「あ」
「え?」
「おい……」
「シャッターチャンス」
 ばたんと扉が開いて、辻村と和泉が転がるように部屋に入ってきた。逃げる和泉を追っていたのだろう辻村は、不機嫌そうな顔をして。部屋に入るなり携帯のカメラを俺達に向けた和泉は、茅に携帯ごと取り上げられて拗ねて丸まっている。馬鹿みたいにいつも通りだ。――……清史郎と瞠がいないけれど、いいんだ。迎えにいくんだから。
「どうすんだよ、もう夜食食っちまいやがって!」
「もう夜だよ」
「意味が違う! 今食べちまったら意味ないだろうが……」
「……お腹すいてた」
「空腹時に食べるものだったんじゃないのか、辻村」
「…………そうだな、そうだそうだその通りだ……お前は悪くないよ……」
「晃弘グッジョブ!」
「……Good job?」
「お前もやるな! ……なあ、美味かったか?」
「お腹は膨れた」
「僕は食べていない」
「そうかよ……」
 俺はひっくり返るように爆笑した。三人ともとても変な顔をしたけれど、俺はとても満たされた気分になった。
 あんなに怖がっていた夢も闇も扉の向こうも、目覚めたらこんなに幸せだなんて。辻村が怒って、和泉がとぼけて、茅が真面目だ。
 忘れてしまいそうなくらい当たり前に穏やかな夜を、俺はずっと待っていた。もっと早く明けてしまっていても、ここで開けなくても、きっと今日は来なかったんだろう。蹲って泣き喚く小さな子どもが僕だったかもしれない。絶望に打ちひしがれたまま、起き上がれなかったかもしれない。
 だけど俺はここにいるよ。自分で選び取った世界に。俺は俺の剣で、茨だって怪物だって切り倒せる。きっと叶えられることを、俺はわかっている。俺は夢を見続けていられる、幸せな夢を。  
「はあ……笑った……」
「春人がおかしくなったかと思った」
「驚いた……」
「もうそろそろ時間かな? 行こうよ」
「無視するなよ……」
「白峰、寒いよ」
「煉慈おんぶ」
「このわがまま小僧が……」
「茅、辻村、手繋ごう」
「喜んで」
「俺の手は二本しかないんだが」
「春人、僕が繋ぐ」
「おい! 聞けよ!」
 今日はすごく寒い日だから、肩を寄せ合って笑おう。お団子みたいにくっついて、清史郎と一緒に瞠を待とう。もしかしたらもう瞠は来てるかもしれない。そうしたら、一等賞だよって笑ってあげよう。
 はにかむように笑う瞠をみんなで囲んで、たとえば今日世界が終わってしまっても、共に居られることを喜ぶんだ。誰も泣かなくていい。もしそうなら、俺はとっても嬉しいんだよ。俺が幸せになることも、みんなが幸せになることも、例えようもないくらいに。
 俺は夢ばかり見ていたけれど、これは夢なんかじゃないって、わかってる。だから、おねがい。めでたしめでたしで終わらせてしまわないでほしい。だって、俺たちはまだ歩いているんだから。星が流れるより早く、俺たちは歩き続けている。


図書室のネヴァジスタ一周年
本当におめでとうございますありがとうございます!
 もっと早くに出逢えていたらと思いもしますが、
こうして今出逢えていることに感謝です。
 こんなにも愛しいこどもたちが、
こんなにも優しい大人たちが幸せになりますように。
 他にはないです。墓まで持って行きます。


◆ つさんぬ
◆ @tusanne
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