カレンダーに並んだある月のある日を見るたびに、ざわざわと落ち着かない気持ちが浮かんでくるようになったのは、一週間ほど前からのことだ。
 一週間とは言っても、僕がそれをちゃんと意識しようと思ったのが先週の今日だっただけで、本当のはじまりはもっと前だ。一年の半分くらいの時間を遡らなければいけない今年のはじめの時点でも、きっと、絶対に、僕は同じ気分になっていただろう。ただ、一月から今日までの結構な期間でも決して消えてなくなることはなかったものの、途切れ途切れのものだったし、試験が始まる前みたいな緊張感は一緒に降ってこなかったから、あまり深く考えることをしなかっただけだ。
 試験が始まって、裏返しにされていた問題用紙と解答用紙を見られるようになれば、ひとつの瞬きする前までに積み重ねて、破裂しそうなくらいに膨らんでいたどきどきした気持ちがなくなって、だけど、その風船らしきものが弾けて割れるのとか、それとも運動会の徒競走でピストルが鳴った直後とかの、突き進む勢いみたいに。僕は断続的にそわそわした感情を抱くけれど、次の瞬間にやってくるまったく関係のないことがあっさりと頭の外に押し出してしまうから、忘れていた。
 それが、月日が経ってカレンダーが一枚一枚めくられていって、なにかの予定を決めるときに目につく回数が増えたのだ。一ヶ月前の時点でももう、すぐに見える位置にまで移動していた。そうなるとどきどきした気持ちは外に出て行ってもすぐに戻ってきて、忘れられなくなった。だから、一週間経ってからその日について考えようと決めたんだと思う。
 落ち着かないとはいっても不安や恐怖みたいな悪いものじゃなくて、不快とは縁遠いたぐいの感情だ。遠足の前日に布団の中に入っても目が冴えているのとか、文化祭の前日準備で学校の中を走り回っているときとかの高揚感、胸が上に向かって弾むものだ。しかも、その数字の並びは僕の胸に楽しみとか、楽しい以外にも、満足感が一緒に降ってきて、とにかくとてもすばらしい日だと伝えてくる。そうやって、どきどきというよりもうきうきと言った方が近いこころもちになる理由がはっきりわかっていれば、きっともっと楽しいのだろう。
 残念かもしれないことに、ここ数日の僕が、誰とも何もしていないのに勝手に笑ってしまいそうになったり、音楽がなくても軽快なステップを踏むみたいな足取りになる理由は僕自身にもわからないのだ。だから僕は、首を傾げながらストレスとはとんと無縁な数日間を過ごしている。
 カレンダーや手帳の両端にある青や赤で記された日でもなく、連休を増やすためとかいった方針で最近は減ってしまった仲間外れみたいな赤とも違う。その日は間違いなく、カレンダーの大半を占める黒で書かれた日の仲間だし、だからと言って赤い丸で囲まれているわけでもない。誰かにとっての特別な日だっただろうかと、僕の周りにいる人の誕生日を思い出したりもしたけど、僕の家族にはいない、白峰君はついこの間お祝いしたばかりだし、和泉君の誕生日は一ヶ月も先だ。僕にとっての何かだとしたら、もっと思い当たるものがない。誕生日は五月で、それ以外に印をつけられる日を持っていないからだ。それでも、どうしても、僕はその日に花丸をつけなくてはいけない気持ちになる。
 そうして、とうとう出入りをするんじゃなくて継続して僕の中に残ったままでいるようになったわくわくとうきうきがひときわ強くなって、でもどうしてそうなるかはやっぱりわからないまま。心だけが特別だって言うのに頭がその理由を見出してくれない日、その当日を迎えた。僕は僕に未熟なところが多いという自覚をめいっぱいに持っているけど、こういう、熱っぽい部分と冷静なところがぱっきりわかれている経験はなかなかないから、本当に不思議でならない。どれだけ理由を探しても見つからないのに、焦りみたいなものはひとかけらも浮かんでこないのが、更に不思議だった。
 謎の高揚感そのものか、どうしてそれが生まれたのかについて考えることをしていたおかげか。今日の僕は職員室に僕がいるときにぎこちない空気になるのも気にならない、気にしないまま、時間割通りの授業と、突然僕だけに割り振られた雑用を終えることができた。しかも、放課後を迎えた生徒たちと同じくらい、もしかしたら部活動をしている子たちや創立祭の慌ただしい足音を耳にしはじめている生徒会役員たちよりも早い時間に帰路についた今でもこころよい感触は消えない。僕は思っている以上に上機嫌なんだろうか。
「――あれ。どうしたの、みんなして」
 運が良かった以外に言いようがない理由で手に入れたぽっかりと空いた時間をどう過ごそうか。この悩み事に対して飛び跳ねるというよりは、ふわふわと浮かんでいる喜び方をしている僕のこころもちは、とりあえず自分の部屋にこもっているのは良くないだろう、という結論を出したから、僕はそれに従った。天気も良くて、秋が深まるには早すぎる過ごしやすい気候につられて散歩でもしようかと、不気味な場所扱いされるし、実際に住まいにして生活をしてみてもこれは何が起きてもおかしくない、と冷静に判断したくなる建物の中を歩いていた僕は、出入り口からすぐ近くにある食堂によく知った顔がいくつか見られて、僕は思わず声を上げてしまった。
「槙原」
 元は教員寮だったこの建物の中で一番広く、机と椅子の数も十分すぎるくらいにあるために、その名前以上の役割を果たしてくれている部屋にいるのは、辻村君と、久保谷君、それに和泉君の三人だ。三人という数を上げると少なく思えるかもしれないけど、僕を含めたらここで生活している人間の半分は集まったことになるから、多数決でここにいる僕たちが同意見だったらそれで決定になる。
 制服から私服にきっちりと着替えている幽霊棟の約半分の住人たちは、一番に僕の言葉に反応した辻村君だけじゃなくて、三人全員が僕の声を受けるとすぐに顔を上げ目を動かして、僕を視界に収めたようだった。入口からちょっと歩いたところに陣取った辻村君たちの座る席の前に立てば、机上にはノートや教科書らしきものが並べられていて、辻村君と久保谷君は筆記用具を手にしている。彼らが熱心に続けていた何かの行動なり、話し合いなりを、僕が声を掛けたことで邪魔してしまった。物語の人物の心境よりも遥かに想像しやすくて、一桁の足し算をするよりも簡単に辿り着ける答えに、罪悪感がのしかかってくる。
 不機嫌とは遠いふうに見える反応をもらえたことは純粋に嬉しいかったけれど、作業を中断させたとしたら話は別だ。僕が謝罪の言葉を頭の中で描いていたら、辻村君の言葉を補足するみたいなタイミングで久保谷君が口を開いた。
「丁度良かった。これからマッキーを呼ぼうかって話をしてたんだ」
「僕を? 呼ぶ?」
「そう」
 目の前にいる子たちが一生懸命にしていることの中に僕の名前が出ていたという話が意外でしかなくて、思わず大きな瞬きをした僕に肯定の相槌を打ったのは和泉君だ。和泉君の短くてきっぱりとした一言はたしかに、と納得させられる力を持っていたけれど、疑問は完全に消え去らなかった。僕は右側に傾けた頭を反対方向、左に動かす。
「……なんで?」
 言えば、三人のうちの辻村君と久保谷君は、和泉君の言葉の後、僕がどんな反応をするかわかっていました、と言わんばかりの淀みない動きで、それぞれの手元を僕に示してみせる。
「この前の英詩のことだ」
「俺は普通にライティングの課題だよ」
 受験生だってのに普通に課題出すんだもんなー、と久保谷君の愚痴る声に僕は少しだけ笑う。
「そっか。英語の勉強してたんだ? というか、勉強会?」
 教科が何であっても僕は喜んだだろうけど、受験生にとってはどれも大事な科目の中で久保谷君が英語を選んだことも、辻村君がそうした科目じゃなくて僕が勧めた英詩を訳すのを続けてくれていたのはすごく特別なことに感じられた。それにきっと、僕に話をしようって提案が出たことが一番に嬉しい。どんな内容であれ、彼らが誰かに頼ることを考えるのは素晴らしいことだと思えたのだ。
「自分の部屋だとどうしても気が散っちゃってさあ。ここでやろうって思ったらレンレンとバッタリ」
「俺はたまたまだ」
「先生。煉慈は、たまたま勉強することになっても大丈夫なよう、常に英和辞書を持ち歩いている男なんだ」
「黙ってろ」
「そうだ、和泉君は? 何をしてたの?」
 ひとりだけ勉強道具の類を広げていない、食堂という場には相応しく、携帯電話を机上に置いて注文したメニューがやってくるのを待ってる姿をした彼に言葉を向ければ、和泉君はいつも通りの顔で、するりと言葉を差し込んでくる。
「僕は、一生懸命な二人を眺める係」
 それは、猫が狭いところをあっさりと通り抜けるみたいに、気付いたときには離れたところに移動してしまう色をしていたけれど、辻村君は和泉君のそれが逃げ出すよりも前に見つけてすばやく捕まえていた。
「おまえも見てるだけじゃなくてやった方がいいだろ」
「これからの三人のやりとりが、僕の頭にもインプットされるから大丈夫」
「さっちゃんだけ追試になっても知らねえぞー」
 僕だったなら肯定の言葉と同じで、根拠がないのにそっか、と見逃しそうになったかもしれない発言に辻村君だけじゃなくて久保谷君も目を光らせる。辻村君や久保谷君の声色も言葉も、棘があるような見てくれだけれど、隠されている芯の中には心配が見えるから、微笑ましいし、安心する。たぶん和泉君もそれをわかっているからか、それともやっぱり猫と同じく気まぐれか、わからないけど機嫌を悪くしないまま、きれいな姿勢で椅子に座り続けている。
「そんなこと言わないの。じゃあ、僕も何か持ってきた方がいいかな」
「俺らのを使えばいいじゃん」
「君たちの教科書やノートに直接書くのは良くないでしょ。ちょっと待ってて」
「ついでにさっちゃん用に白紙のノートも持ってきてあげたらー」
 いらないよ、んなこと言ってる成績かよ、本当に追試になるぞ。僕が背中を向けて歩き出してからも楽しげなやりとりが続いていて、聞くともなしに聞ける僕の中には今日は特別だって言っている正体不明のものとは違う、でも種類は変わらない。とにかく素晴らしいことだって感想が積み重ねられていく。
「なんか、珍しいもの見てるかも……」
 四階にある自室に戻って、使い古した辞書や教科書、それにノートを引っ張り出しながら、思わずひとりごちてしまう。
 かもしれない、ではなくて、本当に、去年の幽霊棟だったら見られない光景だった。僕がこの学校に赴任して、それにこの場に生徒でも教師でもない男がいた日だったなら、彼らはそれぞれの部屋で思い思いのことをしていたと思う。幽霊棟の子どもたちの中心に立って、全員を強く繋いでいた清史郎君はいなくなっていたから。僕やもうひとりの大人が同席していない場でも、五人の子どもは気を落とすか変な緊張感を間に漂わせていたかもしれない。
 その地点からもう一年、まだ一年しか経過していない今日に、それらの気持ちがほとんどすべてなくなっているのが、三人が英語を勉強していることよりも、僕が頼られることよりも何よりも、喜ばしくて素晴らしいことだ。
 持ってきたか購買で買ったまましまいこんでいたらしい真新しくてまっさらなノートを見つけて、本当に和泉君の前に置いてみようか、と。成功まであと一歩のところまで進んだ悪戯を眺めているときみたいな、我慢しようと口元を隠さなければ笑っているのが見つかってしまう、スリリングなのに楽しさが勝ってくる気持ちで手荷物に一冊のノートを追加して、部屋を出ようとした。そのときに、壁にかけてあったカレンダーが視界に入る。僕の目が釘付けになるのは、当然、僕にとってとても良いらしい今日の日付だ。
「あ――」
 遠回りかもしれない、ひとつの円を描く形で、ぐるりと、点と点が繋がった。

「――茅君、白峰君」
 脇に抱えた荷物の中で、赤いペンだけ出して、右手に持ったまま。階段を往復するのを終わらせて、夕日が沈みかけている廊下を歩いていると、人によっては期待通りかもしれない、古びた建物に相応しいと言えなくもない軋んだ大きな音が二度響いて、僕の足音を掻き消した。そうして玄関の戸の開閉が終わってから、僕の視界の先で動かしている足が向かう終着点の手前でもある、食堂のすぐ近くの廊下に現れたのは、予想通りと言えば予想通りの人物だ。
 ほんの数歩であっという間に辿り着いた出入り口と食堂、両方の出入り口近くで、彼らよりも僕の方が帰宅していたのかもしれない、と思わせる制服を身に纏ったままのふたりに声を掛ければ、背が高く、幽霊棟ではちょっと貴重な常日頃から眼鏡を掛けている方の茅君が会釈をしてくる。
「槙原先生。夕食の支度ですか?」
 かつては教員寮で、今は生徒も教師もいるためにいまいちぴったりの名前がつけられないこの住まいで一番身長があるのは辻村君だけど、筋肉がついている茅君の方が大きく見えるときがある。こういう、引き締まった肉によって数値よりも大きく見えるのは羨ましいことだと、どうでもいいことでしみじみとしながら、僕は茅君の疑問に答える。
「違うよ、勉強会なんだ……って」
 すぐ近くにある楽しい場にこの二人も加わればもっと素晴らしいだろう。けれど、僕の君たちもどうかなという言葉は、廊下に立っているのが食堂の中で白峰君とアイコンタクトと手振りで挨拶をしたりまだかまだかと声を掛けてくる三人とはまた別の、幽霊棟で暮らしている生徒二人――だけではなかったことに気付いたために、はじめの一文字すら口にすることができなかった。
「槙原か」
「また君は許可もなしに……来客受付の時間は終了しました」
 黒いジャケットを着ている、学校には似つかわしくない服装をしている大人は、大体いつも正しい手続きをしないでふらりと学校や幽霊棟にやってくる。しかも、僕があからさまに嫌そうな顔と声をしても、津久居君は悪びれるようすも何も見せずに、しれっとそれらを受け流した返事をしてくる。
「晩飯の世話にまではならないから安心しろ」
「そういうことじゃないよ」
 僕だって、僕と同じくらいから幽霊棟の子どもたちとの接点を持ちはじめた津久居君を完全な悪だとは思っていない。子どもたちが慕っているのは、少し悔しいけれど理解できる。ただ、そういう面とは別にして、今みたいに手続きを省いて訪問することの他にもある、かっこつけているのか面倒臭がっているのかわからないいくつかの行動は、子どもたちにあまり見せたくない、同じことを考えるようにさせたくない、良くないものだ。しかも、注意をしても止めないから性質が悪い。
「瞠たち、勉強会してるんだっけ? いいね、俺も混ざろうかな」
「勉強会……?」
 僕と津久居君をよそに、久保谷君が僕のかわりに口にしたらしい招待の言葉を受けたらしい白峰君は筆記用具を持参するか考えはじめて、茅君は隣に立つ白峰君の話を聞いてひとりごとめいた言葉を落とした。茅君の口から出る勉強会という単語がすごく偽物めいているような響きに聞こえたのは僕だけじゃなかったようで、前に立つ津久居君はこころもち肩を呆れた形に落としたみたいな形で呟く。
「ああ、おまえはそういうの必要なさそうだよな……」
 津久居君の物言いは失礼だけど、僕も似たような気持ちだった。物腰が大人らしいから似合わない、というよりは、小さな子どもが頼まれたおつかいで姿と名前が一致しないものを探すような、なんとなく応援の気持ちとか微笑ましいものを持ってしまうみたいな不釣り合いの具合だ。
「生徒会の後輩たちから教えを請われることはありましたよ」
「やっぱり茅君はそっち側なんだ……」
 教師で、ものを教える立場にいるのに情けない話だけれど、こと勉強に関しては茅君に何もプラスになることを言うのは難しいかもしれない。反論をした茅君に僕が、落胆で肩をほんの少しだけ下げていたら、茅君はほんの少しだけ笑って大丈夫です、と言う。
「ひとに物を教えるのは、先生ほど上手くありませんよ」
「またまたー」
「生徒に慰められたら終わりだな」
「津久居君は黙ってて」
 いやらしく口の端を吊り上げる津久居君と僕が再び視線を合わせている間に、白峰君は茅君に声を掛ける。
「茅、俺たちも受験生らしく、勉強しようか」
「僕は何をしようかな……」
 楽しそうに、隣り合ったそれぞれの部屋に向かって、そうして戻ってくるだろう白峰君と茅君を見送れば、食堂の中からは未だに廊下に立っている僕らを急かす声が届く。
「マッキー、まだー?」
「賢太郎も、こっち来て座ったら」
「ごめん、今行くよ」
 呼ばれる声に引っ張られて、津久居君と並んで歩いているとき、三人には届かないくらいに落とした声で、津久居君に訊ねる。
「でもさ。――君は昨日来た方が良かったんじゃないの」
「……さすがに、後ろから殴られたら笑えないからな。あいつならやりかねない」
 津久居君が今日幽霊棟に来た意図は僕が思った通りだったみたいで、殴られて意識まで飛ばしたのは初めてだった、と痛みを思い出したらしい苦い顔をしながら、今も楽しいことを探して校舎内なり、学校の近くなりを嬉々として回っていそうな子のことを容赦がなさすぎる血縁だと評する。ちなみにその生徒は、津久居君がここにいることを知らせれば全部を放り出して帰ってくるのだろう。勉強会の傍らで、彼にメールでもしようかと思う。
 津久居君にとっては忌まわしいかもしれない、でも、今ここに立っているという事実は、僕の高揚感とは違うかもしれないけれど、津久居君にとっても胸に浮かんでくる何かしらの特別な感情や、感慨があるということなんだろう。津久居君が言った去年の昨日の話を笑いながら、僕は今も手に持っている赤いペンでカレンダーに丸い印をつけた数字を頭に描く。
 十月三日。
 どうして、何でもないけれど大事な今日のことを忘れていたのか、理解した今では不思議なくらいだった。ちょうどぴったり一年前の今日、僕は教師になったっていうのに、そのことすらも今しがたまで思い出せないでいた。ただ、学校の先生になってから一年経った事実が嬉しいかというと、大分違う。僕の心が良かったと暖かいものを抱いて、今日をとてもすてきな日だと踊ることで僕の足を軽くさせるのは、振り返る中にはなくて、前を向いた先に広がっている。さっき見たばかりのふたりの笑顔とか、僕たちが席につくのを待っている三人の楽しそうな姿、そして、夏の終わりの嵐に消えた男の子が、戻ってきたこと。
 心か身体に痛かったなにかに、はじまる前から失っていたひと、たくさんのことを経ても、僕たちも子どもたちも笑って、歩くことを止めないでいる。そのことに僕は、うきうきやわくわくをした心を落ち着かせて、幸せだと頷くことができる。
 隣り合った点が最短距離の直線ではなくて、大きくぐるりと回って描いた円はきれいな形ではないかもしれない、それに、始点と終点は同じ位置ではないだろう。でも、それでいい。一本に繋がらない円は、新しい場所、見知らぬどこかに向かって走り出せる可能性を持っているから、すばらしくて嬉しいことひとつ回った今日を喜ぶ。

 ひとめぐりした今日から、また新しい円を描くことができればいいと思いながら、僕はまず、この何もない特別な日を祝福するみたいに楽しむことを決めた。


『図書室のネヴァジスタ』一周年おめでとうございます!
およそ一年前、ネヴァジスタに出会えて本当に良かったなあと
作品を書きながらしみじみといたしました。
素敵な作品を作って下さったことにたくさんの感謝を!
ありがとうございます!


◆ くうと
◆ @crescentsky
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