御影清史郎による幽霊棟学生送別会は数日に渡って行われた。
主催者が希望していた留年者は一人も出ず、若干不満げではあったがそれでも彼は全員の門出を祝っていた。
何度か強引に呼び出され――俺に断る権利はない――参加させられたが、御影清史郎主催という看板通りの突拍子もない送別会は、巻き込まれた俺はともかく、全員が楽しんでいたように思えた。
深夜、瞠くんが牧師舎を訪れるまでは。
瞠くんは牧師舎に着くと無言でソファーに突っ伏したまま動かなくなった。
声をかけようとしたとき小さな嗚咽が聞こえたから、どうしたらいいかわからずただ瞠くんの側でじっとしていることしかできなくて―――それが酷くもどかしく感じた。
しゃくりあげる声が落ち着いてきて、振り払われることを恐れながら瞠くんの頭を撫でた。
慰めるつもりだったのに、肩を震わせた瞠くんにまた失敗してしまったのかと不安に思ったとき、うつ伏せた瞠くんがくぐもった声で呟いた。
「――――卒業したくない」
「…どうして?」
ぐすぐすと鼻をすする瞠くんの答えをただ待った。
「だって……清史郎にもマッキーにも…会えなくなる」
急に涙声が酷くなって、瞠くんは続けた。
「せ、誠二、にも、あえなく、なる、だろ」
息苦しくなったのか、瞠くんはうつ伏せていた体勢から、ソファーにもたれ掛かり床に座る俺に背を向けるようにまるくなった。
背中がくっついて瞠くんがしゃくりあげるときの震えと体温が伝わってきて、悲しんでる瞠くんとは対照的に俺は少し嬉しいと思ってしまった。
「御影清史郎は卒業したら津久居賢太郎のところに行くだろうから、東京で会えるよ。槙原先生には俺のついでに会えばいい」
「会おうと思えばいつだって会える。
いつでも帰っておいで。
君の家はここなんだから」
願っていたよりずっと優しい声で話すことができたと思う。
ずっと伝えたかった。
瞠くんと俺は『家族』なんだから、いつだって俺のところに帰ってきていいんだって。
まだ、君に家族になろうとは伝えられない俺だけれど。
聡いきみには伝わっているんだろうか。
「俺も会いに行くよ。瞠くんに」
大人になる君を、ずっと側で見ていたいんだ。
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